Silicon Valley Workers

シリコンバレーで働く日本人の声を届ける

Panasonicを使いこなす、圧倒的に。

インタビューIT系Panasonicエンジニアシリコンバレー事業開発日系企業起業家

UberやAirbnbといったユニコーン企業が既存産業を脅かし、経営課題そのものが分かりにくくなっている今、現状維持を試みるだけの企業は衰退の一途を辿っている。

かつては世界を席巻していた日本の大企業も、社内ベンチャーやオープンイノベーションなど新規事業開発を加速させようと躍起になっている。

それは経営の神様、松下幸之助さんが創業した松下電気器具製作所(現・パナソニック)も同じである。

今日は、パナソニックのシリコンバレー拠点でIoT関連の新規事業開発を行う中村雄志さんに、シリコンバレーで新規事業開発をする重要性や大企業ならではのポテンシャルについてお伺いした。

中村 雄志 (Yushi Nakamura):
2004年、立命館大学機械工学で修士号取得。学生時代にパナソニック(当時、松下電工)でインターンし、新卒でパナソニックに就職。車載デバイス工場の生産技術・品質改善、本社部門の研究開発・事業開発等を経て、2016年のSXSWにてIoTプロダクトのコンセプト『eny』を発表。2017年より渡米し、ゼロから組織を構築し、現在はパナソニックのシリコンバレー拠点にてIoT関連の新規事業開発に従事。2016年にグロービス経営大学院でMBAを取得。

シリコンバレーで新規事業のコア作り

編集部:今はどんなことをされているんですか?

中村さん:今は、ホテル・オフィス・工場向けに、ヒトにとって自然なインターフェースに拘ったIoTプロダクトを展開しようとしていて、その新しいビジネスのコアをシリコンバレーで作ろうとしています。

なので、シリコンバレーでプロトタイピングなどにより、プロダクトやビジネスの実証をして、「これでビジネスができるね」というコアが固まれば、あとはそのままアメリカで売りつつ、中国やインドなどに一部をローカライズして売っていくという感じを理想としています。そのフェーズでは、パナソニックのグローバルオペレーション能力を使います。

編集部:そのコア作りをシリコンバレーでやるというのは、やはり事業開発や事業展開のスピードを上げるためですか?

中村さん:そうですね。やはり、シリコンバレーからはじまる新しいトレンドが多い事と、スタートアップでも大企業でもとにかくスピードが日本よりも早いので、パナソニックとしてもそのスピードを使って早くビジネスを立ち上げたいというのはあります。その一部としてリーンスタートアップも使いながら進めています。

編集部:ちなみに、その展開しようとしているIoTサービスはどういったものなんでしょう?

中村さん:例えば、これは『eny』というIoTデバイスなんですが、ボタンを押す事で、その場の照明を消したり、クラウド経由で他のWebサービスと連携するようなプロダクトです。しかも、押す力で発電するので配線や電池が不要でメンテナンスの必要性がありません。

ワンタッチで日常生活の複数の動作を完了させるIoTサービス

編集部:おぉー、エネルギー発電素子が入っていると。

中村さん:そうです。エナジーハーベスターと言います。あとは人体通信デバイスという人の表層に電界を発生させて、それを使ってIDを認識させるようなデバイスもあります。

具体的には、腕にデバイスを付けて、ドアノブや椅子にレシーバーを設置して、その人がドアノブに触れたり椅子に座ると、自動的に「今、中村雄志が座ったね」と認識したり、「中村雄志だけど土曜日だからドアを開けるべきではないね」といった判断ができるデバイスです。

編集部:では、人々の生活を便利にするIoTデバイスを創っていると。

中村さん:そうです。パナソニックのメカトロニクス事業部は、ユーザーが機器の操作に使うスイッチやタッチパネルなどを事業としてやっていて、その延長線上で、ヒトのインターフェースに関連するかなり尖った技術を持っています。

だから、そういった技術をうまく活かしつつ、ちゃんとユーザーの価値に繋がるモノを作って、それをIoTサービスとして提供することを進めています。

なので、ホテル・オフィス・工場というのも、コアはあくまでエンドユーザー「人」であって、結果的に今はそこにフォーカスしているということなんです。

編集部:まさにプロダクト・マーケット・フィットするところを探しているわけですね。それで、プロトタイプを作ってテストして、ダメならピポッドして展開されていると。

中村さん:そうです。まさにそれを今やってます。ソフトウェアだと作ったり変更するのにあまり時間もコストもかからないですが、ハードウェアだとそうはいかないので、そこをどうやるかがパナソニックの腕の見せどころですね!

Mountain ViewにあるPanasonicのオフィス

強みを活かすためのIoT

編集部:ちなみに、IoTにこだわるのはなぜですか?

中村さん:これはメカトロニクス事業部だけではなくパナソニック全体の話ですが、会社のスローガンが「A Better Life, A Better World」なんです。

なので、結果的にそれを実現するためにIoTサービスをやるケースが増えているだけで、IoTだけにこだわっているというわけでありません。

編集部:あくまで目標を実現するための一つの手段としてIoTがあると。

中村さん:そうです。パナソニックは今日時点で売上が約8兆円の会社ですが、その売上のほとんどがハードウェアを売るビジネスなんですね。

もちろん、それは我々の価値を認めてくれるお客様がいるからなんですが。でも、だからこそ、そういう今あるハードの強みを最大限に活かす必要があるので、今はメカトロニクス事業部だけではなく、どこの事業部門もハードに加えて、ソフトウエアやデータを交えて、新しい顧客価値や顧客体験を創出する事をやってますね。

編集部:先ほども仰られたように、自社の強みを活かしながらというわけですね。

中村さん:そうです。だから、5年後、10年後はピュアなソフトウェアだけのビジネスがあって新しい強みができているかもしれないですが、現段階ではそこは分からないですね。

物理的な距離の重要性

編集部:例えば、IoTの領域だとAmazonなども力を入れていますが、そのあたりは競合にならないんですか?

中村さん:パナソニック全体の意見は言える立場にないので、自分が関わっているビジネスだけに絞っていうと競合にはなりません。

もちろん、彼らがやっているビジネスと全く同じことをやれば競合になりますけど、それはそもそも顧客から求められていないと思うので、やらないですね。

そして、スタンスとしては彼らのプロダクトで解決できてないお客さんの悩みを解決する、もしくは彼らの抱えている課題を一緒に解決するというスタンスなので、彼らとはアプローチが違いますし、実際にそのあたりの会社とは色んな領域で協業していたりします。

編集部:では、競合というよりはパートナーという形で一緒に助け合えるところは助け合っていると。ちなみに、このシリコンバレー拠点ではそういった外部との交流はないんですか?

中村さん:ここのラボだと、別の会社の社員もいたりして交流は活発ですよ。やはりそのくらいの距離感でやらないとスピードも上がらないと思うので。

結局、どれだけ電話やビデオチャットがあって、Slackなどのデジタルコミュニケーションツールが発達したといっても、コミュニケーションの距離は埋まらないと思うんです。

そして、こうやって直接会うのが一次情報とするならば、チャットやメールになった時点で思っていることがテキストになるので二次情報になるじゃないですか。なので、やはり一次情報でコミュニケーションが取れる事がベストだと考えています。

なので、Apple、Google、Facebookがああいう大きなキャンパスを作って、人を集めているのは、僕の解釈ではまさにそういうことなんじゃないかと思うんですよね。

カリフォルニア州クパチーノにある Apple Park

編集部:なんだかんだ言って、みんなが同じ場所に集まってやる方が効率は良いですよね。

中村さん:そうですね。そして、どういうプロダクトを作ればユーザーたちに受け入れられるかが分かりにくい時代になって来ているじゃないですか。

だからこそ、色々とやり方を変えたりテストしたりで、それによってチームのタスクも変わるので、みんなが同じ場所に集まって事業開発するのが理想だと思うし、資本投資が可能な会社はああいう風にするんじゃないですかね。

既存事業と新規事業のバランスが大事

編集部:少し話が変わりますが、巷では「日本の大企業からは新規事業が出にくい、そこに弱みがある」と言われていますが、これに関してはどう思いますか?

中村さん:半分は本当だと思います。これはパナソニックのように既に成功のビジネスモデルが出来上がっている企業の課題だと思いますが、パナソニックって毎年売上が8兆円あるんですよ。

8兆円ですよ?すごくないですか?しかも、従業員26万人みんなが給料をもらえて、それでもまだ利益が出て成長しているんです。

もちろん、その為には既存事業を担当しているメンバーの凄まじい努力があります。私も数年前まではそれをしていました。

編集部:本当にすごいと思います。

中村さん:つまり、そういうシステムがもう出来上がってるということなんです。

逆を言うと、全てのことがこの8兆円のビジネスをやるために最適化されていて、そこから外れたことをやろうとすると、途端に歯車が崩れてしまうんですね。

だから、新規事業を生み出そうとしても、じゃあ今ある8兆円の売上が下がっても良いかという話になって、結局は今のビジネスを維持する方に意思決定や行動の重心が置かれてしまうんです。

編集部:たしかに、現状でそれだけ売上があって、堅実にキャッシュを稼げるのであれば無理にリスクを取る必要はないですよね。

中村さん:なので、本当に今年の売上だけをKPIとして重視するんだったら、僕のチームを解散して、僕をこのシリコンバレーでの新規事業開発から外して、例えば自動車メーカー向けの事業をやってるところで営業や製造の仕事でもさせた方が絶対売り上げに貢献できると思うんです、来年とかの短期的な時間軸では。

でも、それだけをやっていてもダメだというのは自分たちパナソニックの歴史からも分かっているので、短期的な数値も見つつ、ちゃんと長期的なところもやっていきましょうということなんです。なので、私たちの部門がここに拠点を作ったのも長期的なことを見越しての投資なんです。

編集部:そこは既存事業とのバランスも見ながら攻めていこうというわけですね。

パナソニックを使いこなす、圧倒的に

編集部:例えば、組織として変わるとなると縦横斜めの交流も大事だと思っていて、日本だと『One Panasonic』といった活動もありますが、シリコンバレーでも何かやられていたりするんですか?

One Panasonicは社員のモチベーション向上・知識拡大・
人脈形成を目的とした有志の会

中村さん:シリコンバレーでの事業開発に特化して、NEW PEOPLEの吉田猛たちとやろうとしてるのが、それですね。

編集部:SamePagePeopleですよね!

中村さん:これはただのSNSの話だけではなく、「中村雄志はこんなことを思い描いてるんだよね」とか「吉田猛はこれをやりたいんだよね」みたいなことを組織や企業を超えてみんなで共有していくということなんです。

しかも、各組織の中で、周りにいる先輩・後輩・上司を巻き込んで、そして各社が持つリソースを圧倒的に使いこなして事業開発しているような人たちが繋がれば、絶対に面白いことができると思うので、そういったことが普通になればよいと思って行動しています。

編集部:そういう人たちが繋がれるコミュニティを展開したいと。それが『パナソニックを使いこなす、圧倒的に』という中村さんのモットーにも繋がるわけですね。

中村さん:そうですね。自分が課題だと思っているのが、大企業だとワクワクする働き方ができないとか、個人は成長できないと言われていることなんです。でも、大企業での働き方とかキャリアの可能性ってまだまだ未開発だと思うんですよ。

編集部:どういうことですか?

中村さん:というのも、これだけリソースがあるんだから自由自在に使いこなせたら無敵じゃないですか?そこにチャレンジする事を諦めている人が多すぎると思いますね。

編集部:たしかに。

中村さん:僕は、ある時は事業部内バーチャルスタートアップの責任者をやっているんですが、初めに話した通り、新規ビジネスのコアが固まればグローバルで展開したいので、例えば、その時はスーツを着てパナソニックの既存事業に合うフォーマットでそれを展開していくことも可能じゃないですか。

だから、スタートアップと大企業を両方出入りできるようになるのが最強なんだけど、誰もできないからみんな苦労しているわけで、それを自分の仕事を通じて実証してみせたいとは思ってますね。方法論に整理できると、パナソニックや日系企業の幅広いところで使える手法の一つになると思います。

それで、そうやっているうちに、色んな人が「俺の方がもっとうまくできる」みたいな感じで盛り上がっていって大きい組織が変わると良いなと思ってます。

編集部:たしかに、パナソニックほどの大企業であれば、ブランド、製造ライン、あとはチャネルとかもうまく活用できますもんね。

中村さん:そうなんですよ。なので、「圧倒的に」と付けたのは、例えばユーザー、パートナー、メンバーが誰も気づかない程度のインパクトだったら誤差レベルで意味がないので、十分に大きなインパクトが出るくらい圧倒的にやらないといけないよねということなんです。圧倒的でないと認識されませんからね。

編集部:それで「圧倒的に」なんですね!

時差のある働き方

編集部:少し話が変わりますが、普段はどんな働き方をされてるんですか?

中村さん:最近だと家族がこっちに引っ越して来たので、朝は子供を学校に送って、オフィスに着くのは9時過ぎですかね。

そこから、日によっても違いますが、お客さんのところに行ったり、パートナーと仕事をしたりで15時くらいまではシリコンバレー側の仕事をするようにしています。

編集部:夜は何かあるんですか?

中村さん:16時くらいになると日本が朝になるので、そこからは日本側とのコミュニケーションですね。

編集部:たしかに時差が16時間くらいあるから、シリコンバレーの16時が日本の翌朝8時とかですもんね。じゃあ、そこでこちらの近況を報告している感じですか?

中村さん:そうですね。毎回十分にコミュニケーションが取れているわけではないんですが、社内のプロジェクトの関係者は日本にいるので、さっき言ったオフィス・ホテル・工場の現場を直接見れるのは自分だけなんですよ。

だから、さっき言ったみたいにそれをメールやSlackで送ろうと電話で伝えようと100%は伝わらないので、そこは苦労しながらやってますね。

編集部:夜は何時くらいに帰るんですか?

中村さん:20時には家に帰ってご飯を食べて、そのあとも仕事をしますが、、、疲れ果ててる事があったりしますね。

編集部:家族もちょうど移って来ましたもんね。

中村さん:あと、シリコンバレーの社外の仲間との打合せ等は22時過ぎとかですね。24時にオフィスに来てもらって、そこから打合せする事もあります。

ワークライフバランスとは?

編集部:こっちだとワークライフバランスがしっかりしていて、その健康的な生活がアウトプットの質も高めているという話も聞くんですが、それについてはどう思いますか?

中村さん:僕はそのワークライフバランスという言葉がよく分からなくて…

編集部:概念として?

中村さん:なんと言うか、フィジカルなバランスが崩れたり、睡眠時間が足りなくて倒れるとかはまずいですが、例えば「今は止まりたくありません」みたいな時ってあるじゃないですか?

編集部:ありますね。

中村さん:そういう時は、別に無理に止めなくていいんじゃないかなとは思いますけどね。だから、そこは別にメンタルのストレスとか、フィジカルの疲れとか、自分でコンディションを調整すれば良いんじゃないかとは思います。

編集部:フレキシブルに本人のモチベーションに合わせてということですね。

中村さん:おそらくワークライフバランスって時間のことを言ってると思うんですが、自分の場合は時間もそうだけど、それよりもメンタルコンディションというか、健康的にモチベーションを保って働けるかの方がアウトプットを高める上では大事だと思いますね。

あとは、変化が速い業界で世界中のライバルと競争になっている事を考えると、モタモタしていられないという危機感は常に持っています。

エンジニアになろうと思った経緯

編集部:では、過去の話に移りたいんですが、もともとエンジニアになろうと思ったきっかけは何だったんですか?

中村さん:中学・高校とドイツのミュンヘンにいて、そこではとにかくリサイクルがすごかったんですよ。例えば、ビールの茶色いビンはこのゴミ箱だけど、緑のビンはこっちみたいな。

編集部:すごい!ビンの色で入れるところが違ったんですね。

中村さん:そうなんです。その時に環境問題に対する意識が高まって、環境に優しい機械とか家電を作りたいなと思ったんです。大学の入試面接では「多少便利では無くても、環境に優しい家電や機械を創るべき」と言った事を覚えています。

それで、日本に帰って来て、そういうことをやってる大学を探していたら、ちょうど立命館大学が環境に配慮した機械のことを書いていたので、これだと思って入りました。

編集部:じゃあ、環境問題に対する意識からエンジニアの道を選ばれたと。その後、新卒でパナソニック(当時は松下電工)に入社されていますが、それはなぜですか?

中村さん:ちょうどその頃、微細加工の研究をやっていて、先輩の勧めもあってパナソニックでインターンをしたんですが、周りで働いてる人たちがみんな魅力的で、「こういうところで働けたらいいな」と思って入社を決めました。

編集部:やはり、松下幸之助さんの想いが社員に浸透していたということでしょうか?

中村さん:それもあるかもしれませんが、純粋に人として尊敬できる人が多くて、職場の雰囲気もすごく良かったのが決め手ですね。だから、インターンの影響は非常に大きかったと思います。実は他にもいくつか内定をもらっていた企業があったんですが、結局断ったんですよね。

人生観を変えた最初の配属

編集部:その後、実際に入社して配属されたのはインターンの時と同じ部署だったんですか?

中村さん:もともとインターン先は大阪の門真本社にある研究所だったんです。インターンでも良く評価してもらったし、みんながおいでよって言ってくれてたので、普通に配属先もそこだと思うじゃないですか?

編集部:え、違ったんですか?

中村さん:そしたら、まず「三重県です」と言われて、さらに「生産技術です」と。もうダブルで違って。しかも工場っていう…

編集部:それは…

中村さん:まぁ、へこみますよね。そして、僕はそこで全然仕事ができなくて…ちょうど同じ部署に同期が一人いたんですが、彼の方が全然できるし、なんなら2年目に入って来た後輩の方があっという間に僕よりできるようになって。

それでヤバイなと焦り出したんですが、もがいてももがいても全然うまくできなかったんです。例えば、みんなが30分くらいで出来るようなことが、僕は1日やっても終わらないようなそんなタイプだったんです。

編集部:それはどうやって乗り越えたんですか?

中村さん:向いてないのかなとか思ったんですが、仮に向いてないにしてもせっかく来たからには「吸収できるものは全部吸収して、異動希望を出すなりして次にいこう」と思ったんです。

だって、ここで自分がこういう仕事が苦手だって気付ければ、今後同じ過ちは繰り返さないと思うので、これはこれですごく貴重な経験になると思ったんです。そして、そういう風にやり出したらちょっとずつ物事ができるようになってきて。

編集部:歯車が動き出したわけですね。

中村さん:もともとは生産技術なので、図面を描いたり、生産装置とかロボットの設計・組立をしたりする仕事だったんですが、2年目のあるとき、ある製品に品質トラブルが出てちょうどその対応に何ヶ月か当てられたんです。

そしたらその仕事から帰って来た時に、上司が「せっかくそういう仕事をしたんだから、あの商品をどうやって改善するか考えてよ」という風に仕事の種類を変えてくれたんです。

編集部:お、チャンスが到来したと。

中村さん:それで、設計者の人たちや関連研究をしてる人たちに「この結果って合ってるんですか?」とか「これってどうなってるんですか?」みたいなことを部署をまたいで聞いて回って、「多分これが原因なので、ここを直せば直りますよ」みたいなフィードバックをしてたんです。

そしたら色んなところにまたがって働くスタイルが自分に合っていたみたいで、3年目の後半くらいから急に工場とか部門の中で大事な仕事を任されるようになって、5年経った頃には「その商品のことならとりあえず中村に聞け」みたいな存在になったんです。

編集部:じゃあ、そっちの仕事の方が向いていたわけですね。

中村さん:そうそう。それで5年目も終わろうという頃にもともと希望していた研究職に行けることになって、そこに2年間行ったんですが、行ったら今度はインターンの時の上司がいて。

編集部:まさかの再会!

中村さん:それで、「なんでうちに来なかったの?」とか言われて、「いやいや、こっちのセリフです」みたいな(笑)

だけど、最初から研究職に行ってたら、そのスキルや適性には気付けなかったと思うし、当時のものづくりの現場での経験が今の仕事にも活きていたりするので、結果的には色々と経験してみて良かったなと思います。

編集部:振り返ってみると色々と学びが多かったわけですね。

生産技術者がMBAを取るということ

編集部:そこからグロービス経営大学院大学 (GLOBIS) でMBAも取られていますが、これはどういった理由で取ろうと思ったんですか?

中村さん:昔パナソニックがプラズマテレビの事業で失敗したことがあって、その時に2期連続で数千億円くらいの赤字を出して、潰れる直前までいったことがあるんです。

私が入社した当時勤務していた会社はその直前にパナソニックに吸収合併されたばかりでした。そのときに、自分の周りではリストラはなかったんですが、プラズマテレビの事業部門ではバンバン人を切っていると報道されていて、メディアからもかなりパナソニックが叩かれていたんです。可能性がある企業なので、本当はもっとできるのにと悔しくて。

編集部:歯がゆさがあったわけですね。

中村さん:結局プラズマテレビの事業が失敗したのは商品企画のせいなんじゃないかと思って、これから挽回するためには、どんどん売れるプロダクトを作らなきゃいけないと思ったんです。

でも、工場で働いてるとどうしても「決まったプロダクトをいかに早く作るか」というのが大事になるので、上司に「俺に商品企画をやらせて下さい。売れる商品を作って持って帰って来ます!」と言っても「ダメです」って言われたんです。まあ、そりゃそうですよね。工場の経験しかないんですから。

編集部:それでMBAを取って商品企画側のことも勉強しようと思ったわけですね。

中村さん:そうです。なので、最初はMBAまで取る気はなかったんですが、授業に行ってみると意外と面白かったのと、自分自身が伸びているのも実感できたので、そのまま通い続けてMBAを取った感じですね。

編集部:それでビジネスと開発両方の視点を持って、今の新規事業開発にも取り組んでいると。

シリコンバレーで学んだこと

編集部:そこからシリコンバレーに来られていますが、渡米した際に苦労はなかったんですか?英語は大丈夫だったんですか?

中村さん:英語はある程度できたので、英語の苦労はなかったですね。でも、これはシリコンバレー特有の話ですが、こっちだとパナソニックって言っても「なにそれ?」みたいな感じで会社の名前に何の強みもないんですよ。

例えば、日本人って「〇〇大学の」とか「〇〇会社の」って言いがちじゃないですか?僕も最初はそんな感じで話してたんですが、全然仕事にならなくて…

編集部:逆に彼らは何を見ているんですか?

中村さん:僕が後々気づいたのは、会社とかじゃなくて、その人がやっているプロジェクトやプロダクトの魅力、あとは「俺はこいつと働きたいか」みたいなのをみんなシビアに見てるんですね。

やはりこのエリアだと、僕と打ち合わせをした後に、例えばGoogleの人と打ち合わせがあったり、夜はSAPの人と打ち合わせがあったりということがあるわけですよ。そして、その中で勝っていかないといけないので、そこに気付くまではすごく苦労しましたね。

編集部:そこはどうやって乗り越えたんですか?

中村さん:それこそトライ&エラーで、自分のポジショニングとかパナソニックのポジショニングをこういう風に見せるといったことが自分の中で固まったので、そういう感じでやってますね。もちろん、それでもそんなに打率は高くないんですけどね。

編集部:ただ、会社の名前ではなく、プロジェクトの魅力であったり、人としての魅力が大事だという気付きは大きかったわけですね。

中村さん:そこは大きかったです。これは、私が尊敬している田坂広志さんが重視されている「人間力の世界」で、日々の地道な努力の結果が自然と現れて、相手に伝わってしまう部分です。

今後のキャリア観

編集部:では、今後のキャリア観についてお伺いしても良いですか?

中村さん:今後は、今やっているビジネスのコンセプトをメンバー達と一緒に創り上げて、そのコアが固まったらパナソニックのチャンネルでバーンと流して、「本当にそれがスケールする仕組みだよ」というのを、会社や世の中に証明したいなと思っています。

先ほども話した通り、すでに出来上がった仕組みを回すのが得意な人はたくさんいるので、そういった最初のコンセプト作りに関する学びをちゃんと組織や人に展開して、みんなができるようになったら、今度は全く別のことをやりたいなと思いますね。

編集部:別のこと…ですか?

中村さん:例えば、先ほど話したように大企業から新規事業が出ないとか、大企業だと心踊るような働き方ができないみたいなことって、僕の解釈では社会課題だと思っていて、それを自分のビジネスや事業開発を通して「違うよね」って証明したいし、そういう日本の社会課題みたいなものに取り組みたいですね。

もちろん、その課題は時代によっても変わると思うんですが、「こんなことできたらすごいけど、きっと無理だよね」と言われていることを、僕ができると証明していけたらいいなとは思います。

編集部:次の人たちの道しるべになりたいと。

中村さん:というのも、勝手に自分や組織の可能性とか限界を決めるのが嫌なんですよ。だって、そんなのやってみないと分からないじゃないですか。

僕なんて入社した当初、落ちこぼれ社員ですよ。で、うつ病の直前みたいなところまでいって…でも、それが今となっては一つの事業の責任者としてシリコンバレーにいるんです。

なので、自分1人とってもそうなので、自分の可能性もそうだし、パナソニックや日本の可能性も、そう悲観的になるんじゃなくて、やろうと思えば何とでもできるくらいにしていきたいですね。本当にそう思ってます。

メッセージ

編集部:では、最後に海外で挑戦したいと思っている方に向けて、何かメッセージをいただけませんか?

中村さん:繰り返しになりますが、自分がこうしたいという想いがあるんだったら、それを信じて、そして自分の可能性を信じてチャレンジあるのみだと思います。

ただ、いきなりというのは無理かもしれないので、ちょっと頑張ればできるみたいなところから少しずつストレッチしていくのが良いかもしれませんね。

編集部:一歩ずつ着実にですね。

中村さん:でも、その一歩も結構しんどいと思うんですよ。例えば、大勢の中で、「みんなでこうしましょう!」って言ってもシーンってなったりするじゃないですか。

だけど、そこで本当に一歩前に出られたら、見てる人はちゃんと見てるので、あとでコソッと「あれ良かったよ」って言ってくれたりするんです。

そして、たとえ反応してなくても、メッセージは刺さってると思うので、そんな簡単に色んなことが上手くいくと思わずに地道にやることじゃないですかね。

編集部:それが、先ほど仰られていた「周囲の人を巻き込んで変えていく」というところに通ずるわけですね。

中村さん:そのイメージですね。地味ですけど少しずつ着実に。

編集部:すごく勇気をもらえる言葉をいただきました。中村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

終わりに

今日はパナソニックのシリコンバレー拠点でIoTサービスの新規事業開発をされている中村雄志さんにインタビューしました。

パナソニックという日本の大企業がどんなことに悩み、どうやって変わろうとしているのか、そして『パナソニックを使いこなす、圧倒的に』という中村さんの言葉の真意が分かった気がします。僕も自分の可能性を信じて突き進みたいと思います!

(文・編集: 中屋敷量貴)

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