ドイツ企業SAPに学ぶ #後天的なイノベーションの起こし方
イノベーションの聖地とも言われるシリコンバレー。そんなシリコンバレーでイノベーションを起こしているのは、Googleのような現地の大企業やスタートアップだけではない。
創業45年のドイツ企業「SAP」は、「デザイン思考」を企業文化に根付かせることで、古くて変わりにくい企業から、世界で最もイノベーティブな企業の1つへと変わった。
ドイツという日本と似通った文化背景を持つ国の企業が後天的にイノベーティブに変われたのであれば、日本企業も同様に変われるのではないか?
今回は、SAPのシリコンバレー拠点にてPrincipalを務める坪田駆さんに、デザイン思考による「後天的なイノベーションの起こし方」について紐解いてもらう!

坪田 駆 (Kakeru Tsubota):
当地最大のアウトサイダーであるSAPシリコンバレーにて日本企業との新規事業開発に従事。日本国内のビジネスイノベーションコミュニティ「Business Innovators Network」主宰。コマツとSAPジャパンとの合弁事業「LANDLOG」メンター、経産省のイノベーター養成事業「始動 Next Innovator」メンターなど取り組み多数。
デザイン思考による企業変革の道程

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坪田さん:私がいつもお話ししているのは、無名の「SAP)」という古くて重い会社が、どうやって世界で最もイノベーティブな会社の1つに変わったかという話なんです。無名と言ったのは、ここに来る大半のお客さんがSAPのことを知らずに来られてるんですね。「口コミとか人の紹介で面白い話が聞けるって聞いて…」みたいな。
ということは、ここで重要なのは「トラディショナルで重くて古い会社がどうやって仕組みとして後天的に変わってきたか」ということなんです。我々はそれを変化を内製化すると言います。
タイトルに「ドイツ企業が」と書いてある通り、我々は元々シリコンバレーの住人ではないんです。なので、SAPがこれまでにやってきたことを科学していくと、古くて重い日本企業も変われるんじゃないかということです。
そして、最近よくデザイン思考って聞くと思うんですけど、デザイン思考はシリコンバレーではとても一般的なビジネスのフレームワークだと言われていて、デザイン思考がSAPの成長を牽引した最大のファクターだと言っても過言ではないんです。
なので、今回の話をざっくりいうと、「外資系企業でもデザイン思考を身につければ、後天的にイノベーションが起こせるよ」という話です。
SAP Overview

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坪田さん:SAPの話を簡単にしておきます。SAPという会社はERPというシステムを販売していて、Fortune500という世界の大企業の約9割が使ってるんです。ここには書いてないんですけど、世界のGDPを構成する活動の76%がSAPのシステムを通って行われているんです。
ERP (Enterprise Resource Planning) とは、総務、人事、生産など企業の基幹情報を統合的に処理し、効率的な経営スタイルを目指す経営概念。この概念を実現するソフトウェアはERPパッケージと呼ぶ。
ただ大きい会社に使っていただいてるだけではなくて、重要なシステムを使っていただいてるということです。そして、社員が9万人いて、売り上げがざっくり3兆円くらい。でも、14兆円の時価総額なんです。結構レバレッジされてるんです。
時価総額14兆円というとIBMとかGEと同じクラスの会社なんですけど、売り上げ3兆円という比較的コンパクトな会社なのに、それだけ市場から高く評価されているということなんです。
そして45年ビジネスをやってきました。決して自慢したいわけではなくて、古くて重くて変わりにくい会社だったというのをまず初めに覚えていただきたいんです。
シリコンバレー最大の外資系企業

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坪田さん:そんな会社なんですけど、シリコンバレーの中での位置付けは高くて、みなさんご存知のGoogle, Apple, Facebook, Tesla, HPらに次いで、13番目に従業員規模が大きいテクノロジー企業なんです。お気付きの通り、1から12まで全部アメリカの会社で、ほとんどが本社です。
要は僕らはシリコンバレーで一番大きい外資系企業で、従業員4000人を抱えている会社だということなんです。これは結構重要なポイントで、まずシリコンバレーってめちゃくちゃ排他的な土地なんですよね。
シリコンバレーを形成する非常に重要なエコシステムの一つに資金調達を介したお金の流れというのがあって、つまりお金を投資してもらって育った投資家やスタートアップが、しっかり次の世代に還元していく「エンジェル化のサイクル」が世代を超えて成立してるんです。
そして、ここでイノベーションを起こしたいとなると、だいたい3マイルくらい行けばそれに必要な材料が揃ってるんですよね。こうやって全てアメリカ企業に良い便益がいくようエコシステムが設計されています。日本企業のみなさんも苦労されてますけど、やはりその本流のエコシステムに入っていくのはかなり難しいです。SAPもまったく同じでした。
また、パロアルトって世界で一番物価が高い場所の1つで、パロアルトの中心地に住もうと思うと、四人家族が住む普通の2LDKで家賃が60万円なんです。日本の2-3倍しますよね(笑)
以前新聞で言っていたのが、パロアルトの一軒家の価格の中央値。日本だと、5000-6000万円くらいですかね?それが、ここでは3億3000万円なんです。日本の生涯年収くらいですね(笑)
さすがに高いじゃないですか?だから、行政が働きかけて公営の団地を作ろうという話がこの前ありました。でも、全員に部屋を提供するわけにはいかないので、ある程度年収で足切りするんです。その足切りする年収が2500万円。つまり、シリンコバレーでは年収2500万円もらっても低所得者なんです。
そして、SAPは従業員を4000人抱えて、このあたりにビルを9個持ってるんです。それってすごいことじゃないですか?だから、SAPは目的があってここにいるんです。それが次にお話しする新規事業なんです。
5年で売り上げを2倍に

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坪田さん:2010年頃まではSAPの典型的なイメージでもあるERPが売上の9割を占める会社でした。これは持って生まれた既存事業です。
しかし、この頃に生まれた新規事業が、2016年には売り上げ全体の6割を占めているんです。この5-6年の間にポートフォリオを6割見直したわけです。売り上げ120億ドル、大体1.5兆円だった企業が、この5-6年で売上を2倍の3兆円にしたんですね。
5年間で2倍の成長だとシリコンバレーでは遅いと言われるんですけど、ただ45歳の古くて重くて変わりにくい企業が、6割ポートフォリオを見直しながら2倍に成長したって、かなりすごいですよね。これがSAPが変わったと言われる1つの根拠です。もちろん売上、営業利益、時価総額、従業員といった中身の数字も全部倍になっています。
知られざるイノベーターSAP

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坪田さん:そうすると、イノベーティブな会社だと見られるようになりました。ちょっと割愛しますけど、この真ん中にある「Best Place to Work 2018 in USA」の通り、今SAPはアメリカの中で11番目にみんなが働きたいと思う会社なんです。古くて重かった会社が、イノベーティブで働きたい会社だと思われるように変わってきたということです。
SAPシリコンバレーに殺到する日本企業

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坪田さん:だから、日本企業もみんなそれを参考にしたいわけです。去年は年間で257社から1625人がSAPシリコンバレーに訪問しました。うち企業役員層が168人。
56%が新規なんですね。初めに言ったように、だからみんな知らずに来るんですよ。「SAPさんでしたっけ、SPAさんでしたっけ?」ってよく聞かれるんですけど「いやいや、うちは週刊誌じゃないです」って(笑)
やっぱりこのSAPのストーリー自体がすごく体系化しやすいものだと受け入れられてるんですね。そして、そこには日本とドイツが似てるという背景があるんです。
似た背景を持つドイツと日本

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坪田さん:要はドイツ企業がやったことは日本企業でも真似できるんじゃないかということです。ドイツは日本と一緒で世界トップクラスの産業大国で、3割が製造業と非常に重くて古い会社が多いです。あと、ドイツも日本と同じで終身雇用的な価値観を持っているんです。
これは考え方が古いということではなく、労働法が非常に発達しているので、人が辞めない、というかクビにできないわけです。じゃあ、そういう環境の中ではどういう人がリーダーになりますか?
やはり、失敗をせず、リスクを回避してきた人たちが上がっていくわけです。これって一見すると安定してるんです。別に悪いことばかりじゃないんです。昨日まで解いて来た経営課題が明日以降も続く。つまりずっと右肩上がりの産業構造の中に身をおいている企業というのは、とても安定しているわけです。
日本は1960年代から高度経済成長の波に乗って、60年近く「良いものを作れば売れる」という製造業をやってきました。だから、解くべき経営課題がずっと変わってなくて、右肩上がりの成長曲線だったわけです。つまり、昨日までの成功体験を知ってるリーダーがいれば、基本的にその時流に乗って上がっていけたと。
でも、今ってそうじゃないですよね?このあと補足しますけど、デジタルエコノミーという言葉があって、昨日まで存在しなかったような企業が、明日の自分たちの事業を脅かすことが本気で起きています。
そうなった時、やはり日本企業も変わらなきゃいけないわけです。日本企業の経営者の方とお話しすると、ざっくり意訳すると「スティーブ・ジョブスを待ってます」という人がいるんですが、今の体系ではスティーブ・ジョブスは出世しないんですよ。排他されちゃうんです。だから社長の目の前にはあがってきません。
なので、変わりにくい背景を抱えた産業だということを自覚しなくちゃいけなくて、その上で成長の因数分解をして、成長に必要な楔をしっかり体系化していくこと、つまりは意識的なイノベーションを起こすことが重要なんです。
これをイノベーションの型と言ったりします。ちゃんと型を作って、そのフレームに沿って地道にやっていく努力が必要なんです。だから、スティーブ・ジョブスがいつか現れて会社を変えてくれるわけではないんです。これが日本企業が抱えてる非常に大きな産業としての体系だったいうことです。
デジタルが評価される時代

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坪田さん:これは簡単にいきますけど、この表がドイツ企業の時価総額で、SAPはドイツで一番大きい会社ということです。2位がシーメンス。知ってる会社も多いですね。やはりデジタルという力をつけた企業が評価されてるんです。要は、デジタルというものが非常にパワフルな経営能力だと市場は見ているわけです。
デジタルエコノミー: 経営課題の不確実性

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坪田さん:これがまさにデジタルエコノミーそのものです。Uberって、価格設定のメカニズムが面白くて、みなさんよく需要と供給だって言うじゃないですか。いわゆる、周りにどれくらいタクシーが走っていて、どれくらいタクシーを待ってる人がいるかで価格が決まるという。
実はもう1つ要素があって、彼らはその人の乗車履歴を見てるんです。例えば、深夜に乗るのを繰り返してる人は、ずっとUberに高値をつかまされ続けるということです。要は、「この人はこのサービスにこれくらいの価値があると思っているだろう」とUberが勝手に判断するんです。
本来、タクシーに乗るというサービスの価値はお金を支払う側が決めますよね?この距離を移動するのにこれくらいだったら乗る/乗らないって。でも、Uberはそれが逆転していて、サービスを提供する側がそのサービスの提供価格を決めてるんです。
実はAmazonも同じことをやろうとしています。サンノゼにAmazon Booksという店舗があって綺麗に色んな本が並んでるんですが、普通の本屋さんとは違って本に値段が書かれてないんです。
みなさん本の値段を知りたいじゃないですか?でも、そのためには携帯のAmazonアプリを開いて、バーコードリーダーで本の背表紙のバーコードを読まなきゃいけないんです。めんどくさいですよね?でも、Amazonはこれをわざとやってるんです。
要は、みなさんの情報が欲しいんですね。2つ狙いがあって、1つは本の価格を時価にしたいということ。つまり、需要と供給を見て、次に新刊が出そうなタイミングで、今出てる本の価格を下げるわけです。これはわかりやすい話。
もう1つが面白くて、Uber同様、その人がその本に対していくらまでならお金を払うかという情報が欲しんです。今日の時点ではプライム会員かスタンダード会員かで値段を分けてますけど、将来的にはその人が目の前の本に求める価値をAmazonが勝手に判断して、「普通の本屋だと25ドルで売ってるけど、この人だったら40ドルでも買ってくれそうだから、39ドル99セントにしてサンキューセールにしよう」みたいな時代がやって来るかもしれないんです。だから、このAmazon Booksはみなさんが買わなかった本の情報が欲しいんです。
本の価格って下限は決まってるんですよ。これはAmazonにとっての仕入れ値。でも、上限は決まってないんです。本の値段って、出版社が勝手に決めた値段じゃないですか?どのくらい売れそうか、何部刷れそうか、市場にある競合の本がいくらで売られているかなどを考慮して。
でも、それは消費者によって違うんです。あと500円安かったら買ったのにってありますよね。Amazonはそれにチャレンジしてるんです。
例えば、ウェブの世界だと、カゴに入れたものを買わなかった場合、商品が高かったから買わなかったのか、それとも赤ちゃんが泣き出してちょっとあやしてたらサインアウトしちゃって買わなかったのか分からないんです。
でも、それがリアル店舗だと、わざわざバーコードを読み取って本の値段を見て、それで買わなかったら商品が高いから買ってないわけですよね?この人がこの本の中身に対して、いくらだったら買わなかったのかっていうのを、今後300店舗展開して取っていこうとしてるんです。
つまり、デジタルエコノミーというのは単にUberというIT企業がタクシー業界になりましたとか、配送業になりましたというだけの話ではなくて、行った先の既存プレイヤーを脅かしているということなんです。
これは多くの日本企業、つまり、これまでずっと既存事業を守ってくることに強みがあった日本企業を脅かしていますよね?だから、デジタルエコノミーというのは、企業経営課題を不確実にするものだと言われています。
インダストリー4.0

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坪田さん:これはインダストリー4.0と同じことなんです。インダストリー3.0までは、ざっくり言うと既存プレイヤーが死んだりしてないですよね。つまり、産業が新しく生まれて、そこで新しいビジネス方針が生まれているわけです。
でも、それがデジタルの場合、基本的に既存産業と新規ビジネス、この覇権を巡る争いなんです。そしてそれがミリミリ起きてるわけです。じゃあ、あなたはどちら側にいきますかと。
破壊的イノベーション

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坪田さん:これが最後の前置きですけど、破壊的イノベーションとはハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が確立した有名な理論です。縦軸がお客さんにとっての価値で、横軸が時間です。
伝統的な会社というのは、時間をかけて徐々に価値を高めていくわけです。でも、この先にいきなり破壊的なビジネスモデルが交差していくんです。
その時に「じゃあ、あなたはいきなり黄色い軸に生まれ変われるんですか?」というと生まれ変われないですよね。自分たちの企業価値は既存事業で出来てるのでいきなり変われませんと。だから古くて重い伝統的な会社というのは、そこの二つの体制にすごく悩むわけです。
「このままいっても潰されちゃうけど、じゃあどうすればいいですか?」と。結論から言うと、どっちもやるしかないですよね。既存事業は既存事業で守りつつ、新規事業を自分たちで内製化することによって、この交差点を自分たちの中で作っていくと。だから、両輪経営って言われています。
それは新規事業を作るだけではないんです。いかに既存事業に注いだ労力をうまく新規事業作りに振り向けていくかという非常に難しい経営課題なんです。これが日本企業、ドイツ企業もそうなんですけど、伝統的な産業会社が直面している経営課題で、非常に深い問題なんです。
SAP変革の鍵:3つのP

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坪田さん:ここでSAPが出てくるんです。SAPは、さっき言った通り40年間ずっと9割既存事業でやってきて、そこから一気に伸びたわけです。これは、我々にとっては破壊的イノベーションを自分たちで内製化したということなんです。
それにはSAPならではのコツが3つあって、1つ目が「People」。これはイノベーションの一丁目一番地と言われる、人の多様性ですね。多様な意見がぶつかるところで、イノベーションは生まれやすいと。
我々は一番初めにPeopleに手をつけました。先ほどシリコンバレーがイノベーションの拠点みたいなことを言いましたけど、4000人働いていて、その従業員の国籍が40カ国なんです。1番多いのがインド人。2番目が中国人。ドイツ企業のアメリカ法人ですが、アメリカ人やドイツ人は1割もいないんです。日本人は3人で、うち2人は日系アメリカ人です(笑)
多様性溢れる経営陣

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坪田さん:これは、我々の今の取締役会なんですけど、例えば、女性リーダーの登用もありますし、36歳のCOOもいるんです。ドイツの上場企業では、一番若い取締役です。我々のCIOは32歳で、私の2つ上です。
彼らはもちろん優秀で、それは疑いようがないんですけど、もともとSAPはこんな体系になる企業ではなかったんです。
昔はみんなドイツ人のスーツのおじさんという会社だったから、この5-6年の間にすごく変わったわけです。これってやっぱり仕組みなんです。要はいかに変化を内製化して、仕組みを作っていくかということなんです。

例えば、若者を雇用する仕組み。我々はVocational Trainingという職業トレーニングを高校生や大学生に行なっていて、SAPが大学の授業料を全部払ってあげるんです。
そして、大学生活の3年間をかけて、3ヶ月間学校で勉強したら、その次の3ヶ月間はSAPでインターンしてというサイクルをずっと繰り返すんです。だから、大学生活の半分はSAPでインターンするんですね。
しかも、このインターンの期間は、自分で仕事も選べるんです。どこに行ってもOKで、グローバルの仕事をしてもOK。もちろん、自分でマネージャーと交渉しなきゃいけないんですが、ドイツでは年間100人がこれをやっています。
面白いのは行政との繋がりで、ドイツの教育省がちゃんとSAPでのインターンを単位として認めてあげるくらい密度の濃いトレーニングをしているんです。そして、最近は中国とアメリカでもこれを始めました。年間200名の幹部候補生を高校生から選んでいるわけです。
だからさっき3年間って言いましたけど、卒業してSAPに入った時には4年目と同じくらいの活躍ができるわけです。そういう仕組みなんですね。
Place:新規事業と既存事業

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坪田さん:次にPlace。これがちょっと面白いですね。Placeというのは城下町から離れる、つまり城下町にいてもイノベーションが起こせませんでしたということです。SAPにとって、城下町はドイツなんですが、既存事業の体系の中に新規事業を起こそうとしたんです。

これは失敗をしました。この絵が表してるように、「新規事業は既存事業より大きくなっちゃいけないよ。新規事業は既存事業の枠の外に出ちゃいけないよ。」という、圧力がかかるんですね。そして失敗しました。なので、分けたんです。
Place:場所とトップを切り分ける

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坪田さん:初めに既存事業はドイツ、新規事業はシリコンバレーという風に拠点を分けました。そして、トップの体系も分けたんですね。既存事業は社長が見て、新規事業は会長が見るという風に権限を分けました。
会長はドイツ人なんですけど、こっちに引っ越してきて、新規事業ばかりやって。そうすると、会長自らが新規事業だけをやるので、それは大きくなっていきますよね。
Place:新規を既存に投げ返す

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坪田さん:ここで終わるのは簡単なんですが、我々は今次なるチャレンジに移行しているんです。つまり、新規事業のモメンタムを既存事業側に投げ返して、既存事業の底上げをするということをやってるんですよ。
変わらなきゃいけないのは会社全体じゃないですか。このまま放っておくと、今は黄色い新規事業の部分が6割になってるので、ドイツ側から見ると「イノベーションはシリコンバレーだけで起きてればいいや」といった正しくない観念が生まれちゃうんです。
そして、やはり新規事業もいつかは陳腐化するので、ある程度定着したタイミングで既存事業と一緒に発展していくサイクルに乗せないといけないんです。
今、既存事業はおよそ12から18ヶ月のサイクルで仕事を回していて、新規事業は3ヶ月くらいで回しているんですが、シリコンバレーでは、とにかく確からしいものをたくさん作って、たくさんチャレンジして、たくさん失敗するというのが、この拠点4000人のミッションですね。
SAPシリコンバレーのミッション

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坪田さん:先ほど新規事業の拠点を別に分けたという話をしましたけど、僕らはこれを出島と呼んでいて、つまりオープンで、ある意味治外法権的なイノベーションを強要された場所にしているんです。
それをシリコンバレーに作ったというのがやはり大きいんですね。例えば「HanaHaus」。これはシリコンバレーで一番流行っているスタートアップの溜まり場で、それをSAP自身が持ってるんです。
あと「d.school」って知ってますか?スタンフォードの中にあるデザインを使ったビジネススクールだと言われているんですけど、これもSAPが作りました。シリコンバレーに移ってきたSAPの会長が資材を投じて、約35億円くらいをポーンと出して作った場所がd.schoolなんです。いわゆるデザイン思考の総本山ですね。
なので、スタートアップの溜まり場であるHanaHausもd.schoolも仕組みなんです。つまり、外の企業がシリコンバレーで受け入れられる仕組みというのを、ちゃんと用意したんです。
Process:デザイン思考

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坪田さん:最後はProcess。PeopleとPlaceだけではイノベーションって再現性がないというか、担保できないんですね。起こるかもしれないし、起こらないかもしれない。イノベーティブな人が同じ場所に集まって、同じ方向を向いて、同じステップで、同じスピード感で仕事を進めることが大事なんです。それがデザイン思考です。
Innovation = Creativity x Execution

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坪田さん:デザイン思考を作った人の1人、デイビッド・ケリーって知ってますか?『IDEO』という世界で最も有名なデザインコンサルファームの創業者なんですけど、彼は「Innovation = Creativity × Execution」だと言いました。
Executionは日本の企業が得意なんですよ。先ほど言ったように60年間ずっとExecutionしてきたので。これはProblem Solvingと言われています。つまり、ある問題があったときに、それを解いていく体系です。
それに対して、Creativityって、なんとなく人に依存してる感じがありますよね?クリエイティブな人と、クリエイティブでない人がいそうな感じがします。でも、デイビッド・ケリーはそれを否定しました。Creativityこそみんなの心の中に存在している、全員が生まれ持つ素養だと。
そして彼が打ち出したのがデザイン思考です。デザイン思考とは、Problem Findingの手法だと言われています。解くべき問題そのものを見つける能力。解くべき問題が決まっていればそんなことする必要もないんですけど、先ほど言ったようにデジタルエコノミーで解くべき問題を見失ってる企業は多いんです。
自分たちがどういうところに身を置いていかないといけないのかわからない、60年ぶりに新規事業を起こさないといけないと。そうすると、Creativityが重要ですよね。Executionはみんな得意なので、デザイン思考を使ってCreativityが増強されればイノベーションは起きるよねと。
デザイン思考とは?

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坪田さん:つまり、デザイン思考はイノベーションを起こすためのマニュアルだとシリコンバレーでは言われています。
デザイン思考のプロセス

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坪田さん:デザイン思考のプロセスはちゃんと定義されていて、この5つのフェーズがあります。1つ目の「Empathize」というのは人に共感するということなんですけど、問題があるということは問題を抱えている人がいるということです。その問題を解いていく前に、まずその人になりきってみようというフェーズです。
2つ目が「Define」、つまり問題を再定義するということなんですけど、その人の目線に立つと、今まで考えてた問題って実はそんなに本質的じゃなかったりするんです。他に解くべき問題があるよねと。その問題を疑っていくプロセスがDefineです。
3つ目が「Ideation」というアイデア出しをしていくフェーズですが、ここでアイデアの中に正解が含まれる可能性を上げていきます。ここではもう問題自体を疑う必要はなくて、あくまでアイデアの質を上げていくということです。
アイデアをいっぱい出して、よく東海岸的なロジカル思考を得意としてる人は、出したアイデアに優先順位を付けようとするんですが、解くべき問題もわかってなかった人が、アイデアの優先順位なんて分かるわけないですよね?
デザイン思考の非常に重要なポイントは、とにかく出たアイデアを全部試すということなんです。でも、そんな時間ないじゃないですか。なので、完成品をちゃんと作って丁寧に試すのではなくて、「Prototype」でとにかくユーザーに試してもうらんです。
そして、「Test」してダメだったら次、ダメだったら次という回転をずっと繰り返していくんです。これがデザイン思考のプロセスです。
人に焦点を当てる

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坪田さん:「人に焦点を当てる」これはまずデザイン思考で非常に重要なポイントです。イノベーションは日本語だと技術革新と訳されます。だから、よく技術から入っちゃうんですが、忘れがちなのが人なんです。
つまり、この3つの円のバランスを取らないといけなくて、「Business Viability (経済的な持続可能性) 」というのは、Executionが得意な会社は問題なくて、問題は「Human Desirability (人々の欲求) 」というのがどれだけ担保されているかなんです。
イノベーティブなアイデアと言われて、売れなかったものをよく見ると、この「Human Desirability」が欠如しています。デザイン思考はそれをちゃんと思い起こさせてくれる手法だということです。人に共感して、とにかくその人の解くべき問題にフォーカスすることが埋め込まれているんです。だから、それは日本企業でも真似できますよと。
挑戦し続けること:プロトタイプ文化

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坪田さん:先ほどプロトタイプと言いましたけど、これはとにかく試す、つまり挑戦し続けることなんです。これがシリコンバレーで非常に重要な価値観で、とにかくいっぱい失敗して、とにかく前に進んでいくと。
「Fail early, fail often.」と言いますが、これはまさにプロトタイプの考え方です。Googleって実は世界で一番ボツになった特許が多い会社だと言われています。別に彼らはメンタルが世界一強い集団じゃないんです。失敗したらへこみます。
でも、彼らはなんでそうやって失敗を重ね続けて、イノベーティブでクリエーティブであり続けられるかというと、ポイントは2つあって、1つは失敗が許容されてるんです。失敗したら褒められるんですね。
もう1つは、失敗のコストがすごく低いんです。失敗をするとき、派手に清水の舞台から飛び降りるような失敗はしなくて、大怪我をする前に先に転んじゃうという仕組みが会社の中に、そして仕事のプロセスの中に根付いてるんです。これがプロトタイプなんですね。
失敗には2種類ある

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坪田さん:失敗には2種類あって、ミスを犯すことはシリコンバレーでは発明だと褒められるんです。逆にOpportunity (機会) を逃すと大失敗だと怒られるんです。では、どうやってミスを犯し続けられるか。
最も早く失敗する方法:プロトタイプ

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坪田さん:それがプロトタイプなんですね。とにかく安く早く簡単に失敗しちゃうと。これによって、次に進む推進力を得ていく。これがプロトタイプの考え方です。
GE社のデザイン思考の例

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坪田さん:では、ここでデザイン思考の例を。これ、ご存知ですかね?一応初めてだということで話をします。GEはMRIのトップメーカーの1つです。あるときダグラスというエンジニアがいて、彼が世界で一番コストパフォーマンスの良いMRIを作ったんです。
彼がある時、一番はじめに買ってくれた病院に行ったんです。彼は、すごく重い病気を持った人たちが「あなたのMRIのおかげで病気が治ったよ」と言ってくれることを期待していたんです。
でも、そこで見たのは真逆の光景で、子どもがこのMRIの前で大泣きしていたんです。MRIに乗ったことがある人は分かるかもしれませんが、MRIって怖いですよね。キーンって嫌な音するじゃないですか。それで、子どもが怖がって、彼が行った病院では7割の子どもが鎮静剤を打たないとMRIに乗ってくれないくらい取り乱していたんです。
それはダグラスからすると、人を救うために作ったMRIが、逆に子どもを傷つけちゃってたんですよ。なので、彼はGEに戻ってなんとかしようと、子どもが泣かないMRIを作るプロジェクトを立ち上げたんです。
彼が初めに発想したのは、音がうるさくて子どもが泣いているんだから、音を小さくしようというプロセスなんです。これは残念ながら失敗をしました。まず、別に音を好きで出してるわけじゃないので、音を下げるためにはコストがかかります。期間もかかります。
それは彼のプロジェクトとして許容できるリスクではなかったんです。そこで悩んでた彼が出会ったのがデザイン思考なんです。デザイン思考はさっき言ったようにその問題を抱えた人になりきるんですよ。なので、彼は子どもになりきってみました。
とにかく子どもが何時に起きて、何時に寝て、その間はどういうご飯を食べて、どういう時に嬉しくて、どういう時に悲しいのかって、その子どもになりきってみたんです。すると、音がうるさいというのはそんなに問題じゃないことに気づいたんです。解くべき問題は他にあると。
GE社のデザイン思考の例 / 結果

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坪田さん:答えを先に見せると、彼が作ったMRIはこれです。例えば、これは宇宙船なんです。MRIの機能自体は全然変わってなくて、このMRIに乗る子どもに、前室でこの宇宙船と同じ形をしたMRIの模型で遊ばせるんですね。その後ここに入ると、「うわっ本物だ」ってなりますよね。
そして、先生も宇宙飛行士の格好をして敬礼した状態で待ってるんです。「君はこの宇宙船に乗る初めての人類だ」みたいなことを言って。そしたら子どもはウキウキして乗っちゃうじゃないですか。そうするともう音がうるさいことが気にならなくなるんです。
「この宇宙船ってリアルだね」みたいになるんです。するとMRIが終わった後も「パパもう一回乗りたい」って言うんですよ。それって子どもがめちゃくちゃ満足してるわけですよね。
この話はこれで終わりなんですけど、これはすごくデザイン思考を表していて、彼はまず人に共感する、人を中心に考えるというプロセスを経たわけです。MRIに乗る子どもって病気が重いわけですよ。そうすると、彼が解かなきゃいけない問題はなんでしょう?
やっぱり子どもは普段外で遊びたい生き物じゃないですか。でも、それが全然遊べなくて、友達とも遊べなくて、ずっと部屋の中にこもりっきりで、それでストレスが溜まっちゃって。そこに、MRIのうるさい音がトリガーになって取り乱しちゃうんです。
そしたら解くべき問題はそのトリガーの方じゃないですよね?子どもが遊べないということですよね。だから、遊びたいという問題をこのMRIが解いてあげれば解決するということだったんです。
そして、これってペンキで塗っただけなので全然お金かかってないんですよね。彼が初めに考えついた音が小さいMRIを作り続けたコストと比較してください。どっちが簡単で早いですか?しかも、音が小さいMRIは、そこに乗った子どもが、パパもう一回乗りたいと言うほどの満足度を与えられるでしょうか?
だからプロトタイプはすごく強力な手法なんです。安くて早くて、コストをかけずに正しい答えを見つけられる。実は、これには後日談があって、今はこれをプロジェクションマッピングでやってるんです。だから全然コストがかからないんです。子供が宇宙船やだーって言ったら、じゃあ海賊船ねってパッて切り替えられるんです(笑)
SAPとデザイン思考の歴史

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坪田さん:SAPはこのデザイン思考がビジネスに活きるんじゃないかと思ったんです。そして、SAPはこのデザイン思考をまじめに15年間やってるんです。デザイン思考というと、ポストイット貼って、ワークショップやればできた気になるんですけど、そうじゃなくて、マインドセットなんですよ。
とにかく、いかにマインドとして入れ込んでいくかというのが重要で、SAPも15年かかりました。もちろんデザイン思考ができるコンサル会社はいっぱいあるんですけど、これくらい本気で自分たちの中に取り込んでイノベーションを起こしたと胸を張れる企業も少ないと思います。
だから、SAPはこのデザイン思考の経験をおすそ分けしながら、お客様の事業開発、事業課題の解決策を一緒に考えることを本業にしているんです。最終的には、それが我々の基幹製品であるITソフトウェアのビジネスにも繋がるということです。
いま、求められる両利き経営

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坪田さん:なので、今求められているのは両利き経営です。これは新規事業だけやりましょうと煽っているのではなく、既存事業ばかりやってきた企業が、どうやったら片手をあけて、こっちの世界に踏み切れるかという、その秘訣というか、イノベーションのフレームワークをSAPの経験を元に紐解いてみたというわけです。
これが、私が日本企業のみなさんにお話ししていることです。
▼以下、Q&A
事例:コマツとSAP

今回の取材会場: SAP Labs Silicon Valley
編集部:この話を聞いて次に繋がったであったり、デザイン思考を取り入れてビジネスが成功したっていう話はあるんですか?
坪田さん:そういう時によく話すのはコマツさんの話で、コマツのKOMTRAX (コムトラックス) って知ってますか?いわゆる繋がる建機なんですけど、建機ってすごく現場で盗まれるんですよね。
編集部:え、盗まれる?
坪田さん:建機って耐久年数が長くて、中古でもそんなに値落ちしないから、バラして売れるんですよね。だから夜置いておくとパーツが盗まれたりするんです。でも、コムトラックスだと、GPSで建機の位置情報が分かるので、盗まれたり、あるべき場所にいなければ、遠隔でその機能を止められるんです。
編集部:稼働率などのデータも取れますよね。
坪田さん:でも、それって結局物売りなんです。要は、建機が売れる環境にすごく依存したビジネスモデルなんです。でも、これから日本は人口が減るので、家も建たないし、作る人も少なくなっちゃうと。今、建設業界では300万人くらいが労働しているんですけど、向こう10年で200万人ほど減ると言われてるんですね。
つまり、負担が1.5倍になるということです。それって結構死活問題じゃないですか。だから、コマツの課題っていうのは、単に建機が売れなくなるだけじゃなくて、建設業界自体が破綻するかもしれないということでもあるんです。
編集部:なるほど。
坪田さん:だから、彼らは「LANDLOG」という新規事業を立ち上げたんです。ランドは土地でログはデータのログ。これは建設プロセスのデータを横断的に全部取っていくんです。そして、データを商売にすると。

これはグーグルマップと一緒なんです。グーグルマップって地上の情報を全部載せてるじゃないですか。あれ、一般の人はタダで使えてますけど、企業はお金を払って使うことになってますよね。
コマツもそれと同じことをやろうとしていて、要は、データがいかに充実しているかが効率化の観点で非常に重要で、それをコマツが担保してあげますというビジネスモデルです。だから、別にコマツの建機じゃなくて、キャタピラーの建機が置かれた現場でもその情報は欲しいんです。
編集部:間違い無いですね!
坪田さん:そこを掘ったら何が出てくるかとか、過去にどういう人たちがこの現場で仕事をしてたのかとか。そのデータを使ってビジネスしたい人ってすごく多いんです。
例えば、保険業者もそうですね。今、工事現場の保険ってすごく値付けが難しいんですよ。要は、工事現場って事故を起こしたら損害も大きいし大変じゃないですか。でも、実はそんなに起きないんですよね。だから値付けが難しいんです。
編集部:そこもデータを活かせると。
坪田さん:そうそう。個々人の作業データも取って、今働いている人はどれくらい作業をしていて、その人が持つスキルレベルと受け持つ作業のリスクバランスはどれくらいかとかも分かるので、その人にぴったりの保険を作れますよね。それがデータを巡るビジネスモデルとして成り立っているんです。
その「LANDLOG」はコマツとSAPが作ったジョイントベンチャーなんですが、コマツの大橋社長にシリコンバレーに来ていただいて、次の月には役員会を呼んでいただいて、そこから半年くらいで立ち上げたんです。
編集部:かなりのスピード感ですね!
坪田さん:SAPに求められたのは、やはりデザイン思考を会社の中に入れ込んでいくという点ですね。つまり、デザイン思考を元に作るという観点が1つ。拠点を分けて新規事業を作っていくという観点が1つ。
あとは、エコシステムというのがあって、SAPってグローバルに40万社くらい顧客がいるんです。コマツは土木業界はたくさん知ってますが、保険屋さんのことは知らないじゃないですか。だから、そこを僕らが補填しますよと。
やっぱり、お客さんの成功に対して、僕らも責任やリスクを負ってビジネスに踏み切るというのは大事ですよね。それくらいデザイン思考というものが、我々の共存力を左右する大きな価値観になっているんです。
日本企業がイノベーションを起こすには?
編集部:例えば、シリコンバレーは村社会だと言われていて、少し閉ざされたエコシステムを持っていますが、そこに日本企業単体で来て、新規事業の出島みたいなものを作ってやれるかというと結構難しいと思うんですがどうなんですかね?
坪田さん:日本企業は今、過去一番シリコンバレーに来ていて、おそらく900社くらい来てます。なので、シリコンバレーの中でも日本企業向けのエコシステムが結構発達していて、その枠内である程度の成功を持って帰ることは可能なんです。
ただ問題としては、よくピッチャーキャッチャー問題と言われていますけど、シリコンバレーでやったことがちゃんと本社で評価されないということと、その会社を変えるくらいのイノベーションはやはり本社が動かないとできないということなんです。
そして、日本企業のみなさんが苦労されるのが、日本ではすごく有名な企業だと思ってこっちに来ても、こっちのスタートアップにはあまり受けないということですね。
そういうジレンマがあるので、日本企業のコミュニティ内ではある程度成功できるかもしれませんが、会社を変えるぐらい大きなイノベーションというのは、本社も分かってくれないし、シリコンバレーの中でもなかなか認められないということです。
編集部:難しい部分ですね。
坪田さん:これをSAPが日本で本丸に寄り添って助けられることはないかと今考えていて、今度「Business Innovators Network」というコンソーシアムを作ります。
これはデザイン思考を中心に本気でイノベーションを起こしていくコミュニティで、そこにスタートアップ、デザイン会社、投資家、そしてアカデミックの人たちを集めます。それが今の僕の大きな活動の1つですね。
このあと実際に東京の中心地にコワーキングスペースみたいな場所を作って、そこで出たアイデアに対して投資家が「それだったらうちは数億円投資しますよ」とか、スタートアップが「うちの技術使えますよ」みたいに、みんなが助け合える環境・仕組みを再現的かつ継続的に日本で仕掛けていきます。これはまさにシリコンバレーで起きてることですね。
編集部:色んな人たちが関われる場所を作って、そこで出てきたプロジェクトをSAPが助けてグローバルにも持っていくわけですね。
坪田さん:それはありますね!やはりSAPの持つ40万社の顧客ネットワークは強いので。なので、僕らは解くべき問題をデザイン思考で正しく見定めて、本気で頑張っていこうとする日本企業を応援していきたいわけです。

オフィスの壁に描かれた次の産業を生み出す技術
SAPが変われた理由
編集部:例えば、こういう取り組みをやろうとすると、その企業のトップや経営陣の考え方と行動が変わらないと難しいんじゃないかと思うんです。特に、役員の任期が4年間だとすると、いかにその4年間をミスなく過ごせるかが個人として大事になるので、リスクを取るメリットがないのかなと。
そんな中でSAPが変われたというのは、役員や会長たちがすごくビジョナリーな意識を持っていたからなのか、それともさっき仰られた内部の仕組みが5年、10年経ってワークしてきたから変われたのか、どの要因が多いんですか?
坪田さん:すごく良いポイントですね。というのも、それはすごく答えにくい質問なんです。なんでかと言うと、やはり会長の影響が大きいんですね。
編集部:オーナー社長だから変われたと。
坪田さん:変わりやすかったのは間違いないです。ただ、2つ重要なポイントがあって、1つが、先ほど青い丸と黄色い丸を映しましたけど、創業者でも重くて古い凝り固まった企業の中でイノベーションを起こせなかったんです。だから、トップダウンが全てではなく、トップダウンはあくまで必要条件だということです。
もう1つ。例えばコマツさんはオーナー企業じゃないわけです。でも彼らは、トップにコミットメントを取らせることに素晴らしく長けた企業で、トップを突き動かす下のリーダー層、実際の実務リーダー層がすごく発達してるんです。
要は、どうやってトップにコミットさせるかも重要で、ここに来たトップがSAPの話を聞いてコミットする気になって、結果として企業が変わっていければ最高じゃないですか。そこに再現性をもたらせないかというのが僕らのチャレンジでもあるわけです。
だから、今の時点ではオーナー企業だっていうのがSAP的な回答なんですけど、それをなんとか打破して、そうじゃない企業が変われるストーリーというのが非常に重要だと思うので、そこはコマツである程度証明できたのかなと思っています。
編集部:その再現性を担保するために、今日お話されたフレームワークなどを使って確率を少しでも上げていこうというわけですね。
坪田さん:そうですね。底上げするという感じです。

トップは危機感を持っている
編集部:アメリカの場合、GoogleやAmazonが近くにいるから、古い会社も「変わっていかないとやられる」という危機感があってオープンイノベーションにも積極的な印象があるんですが、日本企業も危機感は感じているんですかね?
坪田さん:トップはすごく危機感を持ってますよ。少なからず、僕らがお会いする大企業の方々はグローバルにビジネスを展開されていてダメージを受けているので。
そして、組織にアクセルをかけるためには真ん中の人、いわゆる中間層の人たちが重要で、トップの危機感には、そういった彼らを動かす仕組み作りなども含まれているんですね。そして、そこはSAPも同じなんです。
編集部:同じなんですか?
坪田さん:今、僕らは全員デザイン思考が必修なんです。例えば、SAPアカデミーという企業名大学がSan Ramonにあって、そこで年間300人のグローバルに選ばれた新人が研修をするんです。そして、その1ヶ月半の研修の間は、他の国の社員とルームメイトになって、寝食を共にしながら勉強すると。
要は、ビジネススクールみたいなもので、ビジネス講習、ロジカルシンキング、デザイン思考などを学ぶわけです。あと、いかにプレゼンテーションで相手の心を掴むかといった実践的な研修もやります。講師も厳選されていて、例えば、営業職なら前の年のスーパー営業マンがその1ヶ月半先生として選ばれます。
それって要は、最終的に「あなたにイノベーションの素養ありますか?デザイン思考できるリテラシーありますか?」って聞いてるわけですよ。そして、最後にPassかFailがあって、パスだったら次に行けるけど、ダメだったらさようならになっちゃうんです。
編集部:え、切っちゃうんですか!?
坪田さん:だから、本気でこの人が素養があるかっていうのを見極めてるんです。そして、新しく入ってくる人は優秀なんです。問題は真ん中のおじさん層なんです。そこに対しても、僕らは全員がデザイン思考をできるようにするための仕組みを持っていて、それがSAP独自の人事評価制度なんですね。
SAPって、基本的には年俸なんですよ。要は、基本給とボーナス給があって、ボーナスは単純にどれくらい活躍したか、成果を残したかという定量評価で決まると。でも、基本給に関しては、その定量評価とは切り離されてるんです。
編集部:どういうことですか?
坪田さん:それは一言「あなたはイノベーターですか?」って聞いてるんです。そして、「イノベーターじゃないと、どれだけ活躍しても基本給は上がっていきませんよ」となるわけです。
そうすると、自然淘汰されるじゃないですか。だから、おじさんたちもずっと「あなたはイノベーターですか?」って聞かれるわけです。SAPも5年で2倍の成長で満足ではなくて、次の5年でもう2倍に成長するために「まだあなたたちは変わり続ける期間ですよ」と社員に言い続けているわけです。
スタートアップはどうすれば良いか?
編集部:今、日本の大企業もオープンイノベーションと言って、もっとベンチャーと組もうと取り組みをされていますが、どうすれば日本のスタートアップが大企業に対してより大きなインパクトを発揮できるとお考えですか?
坪田さん:やはりオープンに交わる体系ですよね。大企業がイノベーションを起こすための機会点をいかにスタートアップが担保できるか、仕組みとしてどれくらいその中に入っていけるかが重要で。
例えば、先ほど話した「Business Innovators Network」というコミュニティは、まさにそのためのもので、そこに日本の優れたスタートアップ、デザイン会社、ベンチャーなどを巻き込んでいこうというわけです。
編集部:たしかに、日本の大企業の場合、信頼や実績がないからという理由でスタートアップと取引しないこともあるけど、そこにSAPが入ることで一緒にやっていけるのであれば、それは両者にとってメリットがありますよね。
坪田さん:2つメリットがあって、まず期間が短縮化できますよね。スタートアップって資金的なことも含めて、1つの案件に1年も2年も待ってられないんです。もう1つは、2社集まると「1 + 1 = 3」 というシナジーがあること。そういったことをお客さんに担保していければ僕らとしても最高ですよね。
僕らのベンチマークの1つに、国連が定める「持続可能な開発目標」(Sustainable Development Goals: SDGs) があって、それを「Business Innovators Network」の目標とも捉えているんです。
やはり、イノベーションは雑に起こすんじゃなくて、目的がないといけないんです。なので、自分たちの目先の事業課題を解決することが、社会課題のようなスケールアップした課題の解決に繋がるということが、このコミュニティの目的でもあるわけです。
デザイン思考の内製化
編集部:例えば、坪田さんの話を聞いて「デザイン思考すごい」ってなっても、日本に帰って、月曜日にミーティングして、「はい、今月の売り上げ目標はここ」って言われちゃうと、また足元の業務やらなきゃって感じで、全然デザイン思考を実践できないみたいなこともあるんじゃないかと思うんですが、そこはどうやって個人単位で変化を内製化していけば良いんですかね?
坪田さん:まず前提として、デザイン思考は万能じゃないんです。さっき言ったように問題発見の手法なんですね。なので、もう問題が分かりきっている場合には機能しづらいんです。そういう場合には、ロジカル思考とか的確に実行していく力が必要です。
ただ僕は、デザイン思考は少なくとも大企業なり、大きなビジネスの一端を担う個人が身に付けておかなければならない素養、能力だと本気で信じています。
そして、デザイン思考はマインドセットと訓練なんです。だから、一回デザイン思考のワークショップをやって終わりとか、デザイン思考の本を読んだからできるようになるみたいなものでもないんです。
やはり教科書と機会の掛け算なんですね。つまり、ちゃんと体系だった仕組みを自分の中で知っているかということと、それを訓練する場数をどれくらい持てるかが重要なんです。
編集部:インプットとアウトプットを両方回していくことが大事だと。
坪田さん:そうですね。そして、デザイン思考は一人でやるものではなくて、チームでやっていくことが大事です。要は、みんながデザイン思考を持っていれば、新しいものを生み出せる確率が飛躍的に高まるよねということです。
日本企業が躓く点
編集部:日本企業がデザイン思考を取り入れようとした時に、一番躓くのはどの部分なんですか?
坪田さん:解く問題を間違えることですかね。デザイン思考をやることが目的になってることは多いです。本当に解きたい課題を、真面目に本気でデザイン思考使って解いてるかということがあって、「これデザイン思考にありそうだな」って選んでませんか?という。
編集部:なんとなくデザイン思考が使えそうなものに取り組んでしまうと。
坪田さん:あと、よくあるのが「デザイン思考はうちに合わなかった」といって一回で諦めることですね。でも、デザイン思考はマインドセットなので、何回も何回もやっていく必要があるんです。僕ら15年間もやってますから。
編集部:たしかに15年間やってきたからこそ、やっとそれが事業的に芽吹いてきたわけですもんね。なんだか後天的なイノベーションの起こし方が分かってきた気がします!坪田さん、本日はどうもありがとうございました。
おわりに
本日は、SAPのシリコンバレー拠点にてPrincipalをされている坪田駆さんに「後天的なイノベーションの起こし方」についてお伺いしました。
45歳と古くて重い企業だったSAPがいかにしてイノベーティブな企業に変革したのか、そして、いかにデザイン思考が企業変革に重要なのかが分かりました。
また、ドイツという日本同様の終身雇用制度や文化背景を持つ国の企業が変われたということは、日本企業も同様に変わっていける余地があるということだと思います。
ミレニアル世代が台頭するこれからの時代だからこそ、僕もその一人として日本の国力を上げていけるよう尽力していきたいと思います!

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