JPモルガン、ソニーというエリートキャリアを経て、アメリカでゼロから会社を立ち上げた男が気づいた本当のやりがいとは?
本日のゲストは、新規事業のマーケティングに特化されたスタートアップ支援会社「Takeoff Point」で社長をされている石川洋人さんです。
JPモルガン、ソニーと歴史ある大企業でエリートキャリアを歩んでいた石川さんが、ソニーの出資で新しい会社をゼロから立ち上げることで、初めて気がついた仕事のやりがいや楽しさとは?

石川 洋人 (Hiro Ishikawa):
慶應義塾大学経済学部を卒業後、アメリカのJPモルガンの投資銀行部門に入社。エレクトロニクス・ハイテク業界のクライアントを中心に、クロスボーダーのM&Aや資金調達のアドバイザリー業務に従事。その後2003年にソニーに転職し、オーストラリア・台湾・韓国等での海外マーケティングを担当。2009年には、ソニーの社内留学制度を使ってミシガン大学でMBAを取得し、卒業後はCEO室に配属。トップマネジメントのスタッフとして、数々の構造改革プロジェクトや不採算事業の売却M&A案件を推進。その後、2015年10月にTakeoff Pointを設立。
新規事業のマーケティングに特化
編集部:早速ですが、Takeoff Pointはどんな会社なんですか?
石川さん:Takeoff Pointは、ソニーの出資で2015年10月に立ち上げた会社で、ソニーグループから生まれた新規事業やベイエリアのスタートアップに対して、新規事業のマーケティングに特化したビジネス支援を行っている会社です。
具体的には、日本で事業化された商品をアメリカでローンチし、マーケティング戦略の立案やオペレーションの構築、ビジネスパートナーの選定などを行っています。

新規事業のGo-To-Market戦略立案からオペレーションの構築、人材育成プログラムの提供も行っている。
編集部:ソニーの新規事業というと、どういったものを扱っているのでしょうか?
石川さん:ソニーの既存の事業領域外を「新規事業」と位置付けているので、Takeoff Pointで扱っているビジネスのジャンルは幅広いですよ。教育からファッションからスポーツまで。そして、今まではB2C中心でしたが、現在はB2Bの新規事業にもチャレンジし始めました。
どの新規事業にも社内起業家の”ファウンダー”がいて、限られた予算の中どうやったらそのビジネスが”Takeoff”するかを考えていて、うちはその “Point”になれたらと常に考えながらビジネスをサポートしています。
編集部:まさにTakeoff Pointの社名ですね (笑) 新規事業のマーケティングを専門としているとのことですが、新規事業と既存事業のマーケティングって全然違うのでしょうか?
石川さん:全然、違いますね。既存事業では、既に商品がフィットするマーケットがあるので、マーケティングは商品の魅力を「どう訴求するか?」といった方法論を中心に考えるのですが、新規事業のマーケティングでは、方法論の前に、まずは「誰にフィット」して、「何を訴求するか?」が分からなく、お客さまを通じた仮説検証のプロセスを繰り返しながら、段階的に見出していく必要があります。
どの新規事業もそうですが、新商品やサービスが、誰にどう受け入れられるかは、本当にびっくりする程ファウンダーの思い通りにはいかないのです。なので、その商品やサービスが誰にどうフィットするかを、少しずつ確認しながら進めていく必要があって、このプロセスを省略せずに短時間で繰り返すことで、限られた予算内で、リスクを分散しながら、特定のターゲットのみに集中的にマーケティングが行えるようになります。これが新規事業と既存事業のマーケティングの違いだと考えています。
編集部:たしかにそうなるとアプローチ方法が大きく変わってきますね! 石川さん自身は社長として日々どんなことをやられているんですか?
石川さん:何でもやっていますよ。資金繰りや戦略を考えるといった頭を使う仕事から、イベント出展などの営業活動、そして商品を梱包して出荷するような身体を使う仕事もやっています。

編集部:え、そういうのもやってるんですね(笑)
石川さん:やっていますよ、だって他にやる人いないですから(笑) 在庫を仕入れては、自分たちで梱包して出荷して。色んな所で営業して、商品を売っては、現金を回収して。お客様からの問い合わせがあれば対応して、返品があった場合は、検品して交換したりして。何でも屋です。(笑)
編集部:全部自分でやらなきゃいけないのはまさにスタートアップという感じですね(笑)
新規事業がゆえの悩み

Takeoff PointのオフィスがあるSony Interactive Entertainment LLC (サンマテオ)
編集部:ソニーと石川さんはなぜTakeoff Pointを設立しようと思ったのですか?
石川さん:ソニーでは、長年に渡って新規事業がなかなか育ちにくいという悩みがありました。ビジネスや商品アイディアをもった社員は沢山いて、例えば既存事業の技術を使って「こんな面白い新商品ができちゃった」とかいうケースもよくあるのです。
しかし、新規事業は「本業ありき」なので、本業が厳しいと新規事業には投資は出来ない。また、新規事業は市場からのフィードバックを細かく得ながら、必要があればカスタマイズをどんどんかけていける即断即決型で小回りがきく小さな組織体が望ましいので、大規模な既存事業の枠組みの中だと、新しい事業が芽生えにくいという問題があった訳です。
編集部:強力な既存事業があるがゆえの悩みですよね。
石川さん:そんな中、2014年に社長直轄で新規事業創出部という組織がソニーの中でつくられ、既存の事業領域外の新しい事業アイディアを集めて育成することを目的としたSeed Acceleration Program (SAP) という新規事業創出プログラムがスタートし、ここ数年で徐々にソニーの中で新規事業の種が芽生え易い「土壌作り」が進められてきたのです。
そして、アイディアを事業化する流れが出来たのならば、事業化された新規事業を育てる組織、新規事業に特化したマーケティングサポートや販促支援をする組織があった方がうまくいくのではないかということでTakeoff Pointは設立されることになりました。
最初の3ヶ月は仕事が無かった
編集部:1人でTakeoff Pointを始めた時は苦労はあったんですか?
石川さん:最初は大変でした。こっちに来て会社をスタートした時は、オフィスにデスクと椅子と自分のPCしかなくて。そして、アメリカで会社とビジネスを始めるためにはいくつもの法的手続が必要で、契約書類を沢山作る必要があったんですが、そんな手続きやったことがないからやり方がわからない。分からないことは自分で調べるしかなく、「会社の作り方」などのキーワードをひたすらグーグル検索していました(笑)
編集部:なるほど(笑)
石川さん:それで書類が出来て、いざサインとなっても、次はプリンターが無いと気づいて、プリンターを買ってきて。そしたら今度は「待てよ、この領収書はどうすればいいんだ?」と思って、そこで経理システムが無いと気づいて、、、みたいな感じでやっていました。

編集部:最初はもうほんとにゼロからだったんですね。すると、最初はビジネスを伸ばすというよりは仕事環境を整備するところに時間がかかったんですか?
石川さん:そうです。だから私はこちらに来てからの最初の3ヶ月間はお金になる仕事が無かったんです。大企業でどこかに異動するとしたら、普通は前任者がいて、前任者からの引き継ぎありますよね? でもそういうのも何もないから、メールもほとんど来ない。シリコンバレーに知り合いもいない。
売上もないから最初の3ヶ月間は銀行口座から自分のお給料と自分が使った分のお金が減るのだけが見えるわけですよ。そうすると、「この会社何ヶ月後に潰れるな」っていうのもわかるけど、何をして良いのかわからない。10月に来て、12月ぐらいまで完全に病んでいました(苦笑)
編集部:それはなかなかハードですね、、、
3ヶ月病んでた期間から復活したのは何かきっかけがあったんですか?
石川さん:一番最初は、自分には会社を立ち上げるノウハウが無いから、とにかく出来る人にやり方を聞かないとダメだと思ったことです。最初の3ヶ月間はインフラと戦略作りとか色々と考えてはいたんですが、考えているだけじゃだめで、自ら動かないと変わらないなって気づいて、年明けくらいから色々なセミナーやイベント、ミートアップに積極的に出ていくようにしました。
編集部:おぉー、まずは人に会おうと。
石川さん:そうですね。すごく印象的だったのは、ちょうどその頃、娘の小学校のイベントに顔を出したことがあって、その時偶然隣に座った娘の友達のお父さんがスタートアップをやっている人だったんですよ。
編集部:なんかシリコンバレーあるあるって感じですね(笑)
石川さん:それで、恥を捨てて、どうすればいいか分からないことを全部さらけ出して相談したら、その人がすごく親身になって考えてくれたんです。例えば「人材の採用の仕方が分からない」と聞いたら、その人が「誰々を紹介してやるよ」って言って、全然知らない人を紹介してくれて。その後も、給料水準や決め方がわからないって言ったら、「そんなの全部聞けばいいじゃん!」って言われたんです(笑)
編集部:なるほど、それで開き直ったというか(笑)
石川さん:それからは、プライドもなく「とにかく人に頼ろう」と思って、出会った人には分からないことを聞きまくって、シリコンバレーのスタートアップの殆どが使っているツールを片っ端から教えてもらって、次々にTakeoff Pointで導入していきました。
編集部:やはり人との繋がりが大事なんですね。
石川さん:大企業にいると、自分の会社をどうすればいいかなんて他の人に悩み相談しないじゃないですか? でも、会社もビジネスの作り方も、全部他の人に聞くっていうのは立派なやり方ですし、下手に自分で考えて何も出来ないより、すぐに動くスピードの方が重要なんだというのを、最初の数ヶ月で学びました。
編集部:スピードの重要さはシリコンバレーにいると強く感じる部分ですよね。
石川さん:そうですね。1年目は、毎日バタバタしていて、少しでもイレギュラーなことが起こると、あたふたして胃が痛くなったりしていたんですが、今はオペレーションも順調で、社員もビジネスパートナーも増えて、会社の「立ち上げ段階」から「発展段階」にギアをシフトしている時で、自分達で色々と考えてトライするフェーズに変わってきています。
編集部:今の段階に至るまでの立ち上げはすごく大変だったと思うんですけど、その分やりがいもあったんですか?
石川さん:最初はほんとにゼロからで大変だったけど、私は今までのキャリアの中で、ここに来てからの仕事が1番面白いです。
編集部:へぇ~、そうなんですね!
石川さん:それは、ここでの仕事が自分で1番成長しているって感じられるからです。出来ないことが出来るようになるのが成長じゃないですか? 最初は出来ないことばかりだったので、自分で成長を感じられるんです。少しずつ前進しながら、自分の力でビジネスを発展出来ることに生きがいを感じられるようになってきています。
JPモルガンからソニーへ転職
編集部:ここからは過去のキャリアのお話を伺っていきたいのですが、1社目が投資銀行のJPモルガンにいらっしゃったということですが、どういうお仕事をされていたのですか?
石川さん:ソニーに入社する前は、投資銀行で主にクロスボーダーのM&Aや資金調達のアドバイザリー業務をやっていました。さまざまな業界のトレンドやニュースを追いながら、どうやったらクライアントが会社として良くなるかを常に考えていました。

編集部:その後、ソニーに転職されたのはどういう経緯だったんですか? それもソニーショックの直後ですよね?
ソニーショックとは?
2003年4月24日のソニーの決算発表を受けた株式市場の動揺のこと。2003年1-3月期の大幅な赤字と翌決算期の3割減益見通しを発表したことで、翌日から2営業日にわたりソニー株はストップ安を付けるとともに、ハイテク株を中心に売りが増加して市場全体に波及し、4月28日には日経平均株価がバブル崩壊後の最安値7607円まで値下がりした。 – 経済用語集
石川さん:当時、私は日本のテクノロジー業界を担当していて、ソニーは私のクライアントだったんです。ちょうど3年ほど投資銀行で働いて、次はどこかの事業会社で1つの業界、1つの会社に腰を据えてビジネスをより深く経験して、意思決定をするクライアント側に立ちながら「自分ゴト」として会社を良くしていきたいと思っていたんです。
そんな時にソニーショックが起こって、これからソニーは大きく変わっていくだろうなぁと感じたんです。事業会社に入るのなら、これから大きく変わるところで、会社を変えていく中に入りたいなと思って、ソニーに転職しました。
編集部:良い意味で逆張りの発想というか(笑) 最近のソニーは、業績も調子が良いイメージがありますが、ソニーショック以降も暫くは業績不振と構造改革が続いていましたよね?
石川さん:2003年のソニーショック以降も、業績不振が続き、リストラを含む構造改革が最近まで続いていたのは事実です。2003年に日経ビジネスから「背水のソニー」、2005年には週刊ダイヤモンドから「ソニー大混乱」、2012年には「さよなら!伝説のソニー」、2014年には「ソニー消滅!」と書かれたビジネス誌が次々に出版されていったのは、しっかり覚えています。
しかし、今は業績も回復してきて、JPモルガンからソニーに転職してきた当時の印象と15年近く経った今では、マネジメントスタイルも社風も大きく変わったと個人的には思っています。
認識ギャップと人材バランス
編集部:JPモルガンから転職したときのソニーの印象はどういうものだったんでしょうか? 何か違和感を感じた部分とかはありましたか?
石川さん:ありましたね。これはあくまでも個人的な感想ですが、1つ目は、ソニーという会社に対する社内と社外の「認識ギャップ」です。
JPモルガンに入社した時からソニーに入社するまでの約3年間で、ソニー株価は5分の1以下に急低下し、格付けもズルズル落ち始めていたのにも関わらず、ソニー社内にはそんな認識はなく「我々はソニーだ」とも言わんばかりの高い自己評価に認識ギャップは感じていました。
編集部:内側と外側で認識の乖離があったと。
石川さん:2つ目は、「人材バランス」です。当時のソニーの組織は、明確な職種分類があって、総合的な経営とマネジメントを意識していた人材が少ないという印象を持っていました。
特に、技術・商品企画・営業・法務・人事等、何か一つの専門分野に能力を持った人が経営判断を行っている傾向が強かった印象があります。
編集部:もしかしたらこれらが長い経営不振の原因だったのかもしれませんね。
その印象は今ではどう変わりましたか?
石川さん:今は、長い苦境を経験し続けてきたので「我々はソニーだ」なんて、誇りはあっても驕りはないと思いますし、社外から積極的にマネジメントを採用したり、社内の新陳代謝も良くなり、「人材バランス」も良くなってきていると思います。そうでなければ、ソニーが新規事業にチャレンジすることや、ソニーの出資でTakeoff Pointを立ち上げるなんて、考えられませんでしたからね。これも個人的な意見ですが(笑)
編集部:なるほど、そう言われると説得力がありますね!その他に、何か変わったと感じる点はありますか?
石川さん:あとはマネジメントスタイルの変遷もソニーの経営に大きく影響をもたらしてきたかもしれません。
組織論を専門とするミンツバーグという経営学者が、マネジメントには「クラフト」、「アート」、「サイエンス」と、3つのスタイルがあり、その3つのバランスが大事だという話をしているんですね。
簡単にいうと、「クラフト」は経験ベースで仕事をする人、「サイエンス」はデータやフレームワークを使って仕事する人、「アート」は世の中こうなる!みたいなビジョンを軸に仕事をする人。
それで、昔のソニーは、強いビジョンを持った「アート」タイプの創業者や経営者が引っ張ってきた会社だったと思うんです。
編集部:たしかに、イメージ的にはそうですね。
石川さん:しかし、ソニーショック時点でのマネジメントには、過去に「アート」型の周りで事業を大きくしてきた経験がある「クラフト」型が多く、そうすると「アート」型のマネジメントがいない中、新しいものが生まれにくく、「サイエンス」型も少ないから、客観的な見方ができない状態になったりして、マネジメントスタイルのバランスが崩れていた可能性も考えられるわけです。

編集部:時代の変化と共に知らぬ間に偏りができていたんですね、、、
石川さん:それで私はアートにはなれないし、クラフトは時間が掛かるし、でもサイエンスなら努力で出来ると思って、ソニーの留学制度を使ってビジネススクールでビジネスの理論を徹底的に勉強したんです。
卒業して10年近く経ちますが、ビジネス理論の勉強は続けていて、それは勉強するだけでなく、その理論をTakeoff Pointで実践するようにしています。「目指せ、サイエンス!」は、僕のマネジメントスタイルと決めたからです(笑)
編集部:なるほど、それでMBAを取得されたんですね!
お前は「アクセス」が出来てない

オフィスの入り口には最新のPlayStation VRも含めて歴代の全PSシリーズが飾られている。
編集部:ソニーではCEO室に所属し、トップマネジメントの方々とお仕事をされていたとのことですが、その経験は今も活きているんですか?
石川さん:会社の経営者になりたいっていう意志はずっとあったので、前CEOのハワード・ストリンガーや、現副社長CFOの吉田のスタッフをやっていた時は、彼らの経営哲学やノウハウを全部吸収してやろうと思っていました(笑)
自分の会社の人をこういうのも変な話ですが、ソニーのトップマネジメントは本当にすごい方たちで、仕事への向き合い方や人との対話の仕方はもちろん、健康管理の仕方なんかも徹底されていて、生き方が”一流の男”って感じでした。(笑) その人たちのもとで仕事が出来たことは、すごくラッキーな経験で、そこで修得したことは今も活きていますね。
編集部:それはどういう部分に活きてるんですか?
石川さん:沢山ありますよ。例えば、Takeoff Pointでの意思決定をする時には、「アカウンタビリティ」を常に意識しています。これは、今のトップマネジメントが強く意識していた経営の規律で、その判断の合理性を第三者にしっかり説明・説得出来るか、また、その説明通りのアクションを実行することが出来るかということです。私もこれをいつも自問自答しながら、判断をしているつもりです。
編集部:なるほど。生活面では何か影響を受けた部分はありますか?
石川さん:生活面でも真似している部分は沢山あります。例えば、フィジカルとメンタルというのはやはり「車の両輪」のようで、どっちかが狂うとどっちかが上手くいかなくなっちゃうということですね。そこのバランス管理を、トップマネジメントは自分で徹底していた印象です。だから私もアメリカに来てからは、労働時間は長いけど、運動は必ず毎朝やっており、そのおかげで心も身体もコントロールがちゃんと出来ているのだと思います。
編集部:なんかトップマネジメントの体調管理って本とか書けそうですね!
石川さん:彼らはそこらへんは超ストイックですよ(笑)
あとは言われた言葉にも大きな影響を受けています。例えば、前CEOのハワード・ストリンガーに、「経営者として必要な要素は3つある」と言われたことがあるんです。

ハワード・ストリンガーはソニー創業以来初の外国人CEOを務めた。
石川さん:1つは「インテリジェンス」。勿論、勉強や学歴や資格だけじゃなくて、人との会話の仕方、行動や振舞などのインテリジェンス。
もう1つは「パーソナリティ」。努力を惜しまず、前向きであり、やはり周りの人に嫌われる人はダメだと。
それで、あともう1個は「アクセス」だって言われたんですよ。
編集部:「アクセス」ですか?
石川さん:これは意外だったんですが、CEO室から異動するときに最後にハワードに言われた言葉で、「立派な経営者になるには、アクセスが必要だ。アクセスに関しては、お前はまだまだ出来ていない」って言われたんですよね。
編集部:へぇ〜、それはどんな理由だったんですか?
石川さん:どういうことかというと、会社に職を与えられて、会社に仕事を与えられて、会社にポジションも与えられてキャリアがある。社内の留学制度で行ったMBAも、自分で獲得した権利ではあっても、元々は会社が与えてくれたチャンスだ。CEOのスタッフという貴重な経験も、会社が与えてくれたもの。結局、全て会社に与えられてアクセスを手に入れているんだと。
しかし、「与えられてアクセスを手にすることに慣れてしまうと、自分からアクセスを奪いに行くことが出来なくなる」と。「経営っていうのは自分からアクセスを取りに行かないといけないんだ。今のままだと、経営者どころか、アクセスを自分から奪えない人間になるぞ」って言われたんです。
編集部:なるほど、それは深い言葉ですね。
石川さん:ハワードにそれを言われた当時は、周りに評価してもらって、「与えられること」でキャリアを積み重ねることが当然だと思って生きていたので、その言葉をあまり深く考えなかったんです。
でも、こっちでTakeoff Pointを始めて、「何もしなければこの会社倒産する!」と気づいた時、ふと「ハワードが言っていたのはこれだ!」と、この言葉が落ちてきたんです。それからは、自ら「アクセス」を手に入れられるように、がむしゃらに動くようになりました。
そういった意味でトップマネジメントの言葉や考え方は、今にすごく活きてるなぁと感じていますね。
今後のキャリア観とビジョン
編集部:今後のキャリア観やビジョンを教えていただけますか?
石川さん:まずは、Takeoff Pointという会社を、一人でも多くの人にAppreciateされるような良い会社に発展させていきたいですね。
ソニーの新規事業に閉じることなく、日本の事業をアメリカで発展させたり、逆にアメリカの事業を日本で発展させたり、自身の経験や強みを生かした上で、日米の橋渡し役になれるような仕事が出来たら嬉しいです。
そして、そういう活動を通じて、Takeoff Pointの発展が、世の中の発展につながるようなことが出来たら、それ以上に幸せなことはないと思っています。
編集部:それが出来たらほんとに素敵ですね!
石川さん:あとは、「自分が得たものは、世の中に還元するべき」と考えているので、Takeoff Pointで得たノウハウを、出資してくれたソニーを始めとして社会に還元していく仕組みをつくって、キャリアを通じた経済的な社会貢献をしていきたいと思っています。
既にTakeoff Pointで得たノウハウは、イベントでの講演やパネリスト、高校や大学で特別授業を行い学生に教えたり、ビジネスコンテストの審査員やコメンテーターをしながら世の中への「還元」を意識しています。そういう活動が、世の中のためになるんじゃないかと信じて。

現地の大学で学生に向けた講演会をするなど、まさに自分が得たものを社会に還元している。
編集部:それを通じてTakeoff Point自体も更にノウハウを得られるんですかね?
石川さん:得られますよ! 例えば、うちのビジネスの話をボンってテーブルに出して、それに対してケーススタディ方式でディスカッションしてもらうと、今の教授や学生がどういった見方をしているのかを知れるので、Takeoff Pointとしては大きなベネフィットです。
また、理論を勉強した学生にInternとしてTakeoff Pointに来てもらって、学んだ理論を実際の事業で働きながら実践してもらうこともやっていて、これはTakeoff Pointとして相当吸収するものがあります。そういった学校とビジネスとの連携と循環を増やしていくことで、Takeoff Pointはもっと良い会社になっていけると私は考えています。
編集部:じゃあ産学連携というか、ビジネスのアカデミックな部分と、現場での実践の部分で、お互いにノウハウや人の交流を行うことで双方にWin-Winな関係を作っていくと。
石川さん:ビジネスの世界では、学問の世界だけに閉じるといい学問にはならないので、そこの橋渡しをやっていきたいなとは思ってますね。ノウハウに関してのGive&Takeの関係は学校でもスタートアップでもアクセラレータでも全部一緒だから、その間で循環を狙っていきたいなと思ってます。
メッセージ
編集部:最後に、何かに挑戦したいと思っている人たちへメッセージを頂いても良いですか?
石川さん:僕は5Kっていう考え方を大事にしているんですが、それは好奇心、観察力、行動力、向上心、そして謙虚の5つなんですよね。
5Kは雅楽師である東儀秀樹の言葉。
ものごとを面白く体験するための5Kは、好奇心、観察力、行動力、向上心、そして謙虚。
特に謙虚は大事。一番最初のワクワクした気持ちを忘れないことです。
これさえあれば何をやっても面白い。 – 名言ナビ
これを常に持っていれば人間はどんどん成長して、それが会社のためになり、社会のためになると思っているので、場所はどこにいてもそれは変わらないのかなと思っています。今は日本にいる人も、その気持ちを持っていればたぶん社会貢献みたいな大きなことの実現に繋がるんじゃないかと思ってます。
編集部:その5Kを常に意識することで輪が広がっていくわけですね。
石川さん:5Kがあると自分のレベルアップは絶対に出来るんですよ。まず新しいことを始めるには好奇心が必要だし、好奇心を持ったらそれを行動に移すために観察しないといけない。行動した後は更に上達したいという向上心が出てくるけど、自分は既に充分出来てるんだって思ったら絶対に伸びないから、謙虚さを持ってそれをやる。全部こう順番になってると思うんだよね。
編集部:そう聞くと、Takeoff Pointの立ち上げの時にまさに石川さんがやったことにも通ずる部分がある気がします。
石川さん:そうですね、会社を始めた時も5Kを思い出したから出来たのかもしれないです。
あとは、コンフォートゾーンから出て、新しいことにチャレンジしようと決断出来たことも、自分にとってはやはり大事だったと思います。
編集部:コンフォートゾーンから出ることの大切さはアメリカでは特に強調されますよね。
石川さん:Takeoff Pointを始めた当初、苦しみながらも自分なりに一生懸命考えながら会社をやろうとしていた頃は、実はまだコンフォートゾーンにいた時です。その後、自信満々の起業家が沢山集まるコミュニティーに入り込むと決めた最初のころは、相当ビビッていて勇気が必要でした。コンフォートゾーンを頑張って出た時ですね(笑)
そして、Takeoff Pointを始める前も、正直かなり迷ったんです。それまで、自分が納得しているポジションで納得する仕事も出来ていたし、将来も多分安泰なんだろうなぁと思っていたので、それを捨てて、リスクある仕事をゼロから始めて意味あるのか?って考えてました。
編集部:そこで決断したから今があると。でも、来たらホントにゼロだったみたいな(笑)
石川さん:ほんとにゼロだった(笑)
でもそうやってコンフォートゾーンを出た後に、こんなに面白いものがあるとは思ってなかったですけどね。最初は、来るもの全部新しいからストレスでしかなかったのですが、今はそれが楽しくてたまらない。
大企業にいると別に仕事を休んだって会社は潰れないんですよ。私の代わりは沢山います。でも、Takeoff Pointは明日はどうなってるんだろう?ってことを自分で考えないと前に進まないし、それはすごく苦しいといまだに毎日思っています。
でも、それをコントロールしながら前に進むのは1番面白いですよ。たぶん経営ってそういうことなんだと思います。
編集部:すごくためになるお話を聞けました!
石川さん、本日はありがとうございました!

まとめ
本日は、ソニー系の新規事業のアメリカ展開支援を主に行う「Takeoff Point」で社長をされている石川洋人さんにインタビューをしました。JPモルガン、ソニーと大企業でのエリートキャリアを歩んでいた石川さんが、ゼロから会社を立ち上げる苦労を知り、それを乗り越えたことで想像もしなかったような楽しさとやりがいに満ちた仕事を今では出来ていると仰っているのがとても印象的でした。リスクを取るとはまさにこういうことなんだなと改めて感じたので、僕も謙虚さを持ってチャレンジし続けていきます!
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